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「ところで亜紀は?用事って、もしかして亜紀もデート?」
「デートな訳ないじゃん。遼は今日も遅くなるみたいだし。あ、デートはデートかな。相手は女だけど」
目を輝かせる麗香を見て、クスッと小さく笑った。
「あのさ~、デートって聞いて何で旦那が思い浮かぶのよ。亜紀、あんたそれ虚し過ぎ。しかも、珍しく急いで仕事を切り上げた目的が、女とデートとはね」
麗香はわざと呆れ顔でため息をつく。
「旦那が相手で虚しい?…何で?それに、約束してるのは母親なんだ。今日はちょっと…特別な日だから」
「へぇ~…お母さんね…。それは良いとしても、亜紀、あんたこのまま女として枯れていいの?」
麗香は腕を組み、大きなため息をつく。
「枯れるって…どうして私が枯れるの?」
「…違う、言い方を間違えた。亜紀、あんたはもう枯れ始めてる。若い小娘には到底出せるはずも無い、内から溢れる大人のフェロモン。落ち着きのある気品に艶やかな色気。それが出せるのは30歳過ぎてからの女。亜紀、今からが女の花開く時なんだよ」
「…私に浮気しろって言いたいの?」
「浮気しろなんて言ってない。行為じゃなくて中身、気持ちの話」
私が少し不愉快な表情を見せたからだろうか、麗香は息をつき声のトーンを落とした。
「誰か部屋に入って来るといけないから…止めよ、こんな話。それに私、そろそろ行かなきゃ」
私はバッグを肩に掛けロッカーの扉を閉めた。
「ん…。私も急がなきゃな」
麗香はブラシで髪をとかしながら、ふっと小さく笑った。
「…麗香の彼、会わせてくれる日を楽しみにしてるよ。じゃあ…お疲れ、また明日ね」
私は口元で微笑みを作り、更衣室の扉に向かって歩き出す。
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