安堵の吐息

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名古屋駅でタクシーを拾い、病院に到着した頃には23時を回っていた。 更衣室のロッカーに荷物を押し込み、私服の上に白衣だけ羽織った私は、ERがある西棟に急いで向かう。 楓ちゃん…… どうか、 命だけはどうか助かって! 祈りながら息を切らし、薄暗い廊下を走り抜ける私。 カツカツカツ…… 加速する心臓の音と共鳴し合うかのように、甲高い足音が不気味に廊下に響き渡る。 『病院に着いた。今からERに行く。楓ちゃんはオペ室?』――更衣室に到着した時点で送った、麗香へのメール。 ヒールの踵を打ち鳴らしながらチラリと携帯に目を落とすけれど、麗香からの反応は未だない。 「――あれ、宮坂先生?今日は東京に出張じゃ……」 ERエリアに入る手前の廊下で、肩で息をする私に掛けられた声。 呼び止める声が飛んで来た方向へ顔を向けると、そこには髪を乱した私の姿をしげしげと見る一人のナースの姿があった。 この子、確かERの…… 「浅倉楓は!数時間前にここに運び込まれたでしょ?」 息切れ切れの声を上げて彼女に近づく。 「えっ、あ……はい。浅倉さんなら今―――」 「亜紀。彼女はまだオペ中よ」 「麗香……」 「心臓外科と消化器外科の同時進行オペ。今は肝臓の修復に悠希が悪戦苦闘してるわ」 私の声を聞きつけて来たのであろう。ナースの背後から姿を現した麗香は、白衣のポケットに両手を突っ込んで深いため息を落とした。
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