消えた真実

4/36
前へ
/918ページ
次へ
「直接関与してるって……何が言いたいの?」 少し間を置き、麗香は訝しく私を見つめる。 麗香が放つのを躊躇っている言葉は、おそらく私と同じだ。私だってそんな事はあり得ないと、そう思いたい。 けれど、あの娘が自殺だなんて考えられない。理由が浮かばない。ならば、非常階段から足を滑らせて転落? 設備の常識から考えて故意にそうしなければ、壁や柵によって容易く事故など起こり得ないはず。 レストランでの一件の後、二人の間に何らかのやり取りがあり、そこで妊娠が嘘だったと遼が知ったとしたら?―――それでも、遼にとって彼女が目障りな存在であることに変わりは無い。 目障りな理由は恋愛絡みだけじゃ無い。もしも、遼が『その人物』の正体が楓だと知ったとしたら…… 「……もしかしたら、遼は知ってしまったのかも。私に情報を渡したのが彼女だと…データーを持っているのが彼女だと…だから――」 「だから、証拠隠滅のために邪魔者を突き落としたって!?」 恐れ慄く私の言葉を奪って、緊迫した声を上げる麗香は眉根を大きく歪ませた。 「……」 「いくら残忍な男でも、用心深いあの男が、そんな大胆な行動を起こすとは思えない。捨てた愛人のために、人生を棒に振うとは思えない」 「……私もそう思った。自分で突き落としておいて、助けに来る理由も解らないし。だけど、どうしても遼の行動が不自然に思えて……」 根拠なんてどこにも無い。ただ憶測ばかりが生れては消え、噛み合わない歯車。胸の中で渦を巻く違和感で、むせてしまいそうな程に息が苦しい。 ベッドに腰掛け肩を落とし、唇を噛んで俯く私。 「……そうか……偶然を必然に変えて……」 耳が痛くなるような静けさの中に、麗香がポツリと言葉を落とした。 「え?……」―――偶然を必然に変えて?
/918ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16207人が本棚に入れています
本棚に追加