消えた真実

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私と麗香は息を飲み、部屋の端から撮影される映像に目を凝らす。 「ああ…、二科同時進行だけあるわね。後ろから腕を入れる隙間も無いくらいに群がってる」 通常のオペよりも鮨詰め状態であるスタッフ達を見て、麗香が口端を歪めた。 オペ室内に響き渡るのは、全身状態の異常を知らせる甲高いアラーム音。 「完全に出血性のショック状態ね……まだ肝臓からの出血が止まらないのかしら」 麗香は麻酔機の上部に設置された心電図モニターに目を向けて、その眉間に深いしわを刻んで舌打ちする。 「吸引ビンに入ってる血液量……ガーゼの重さを加えたら、おそらく二千は越えてるよね」 体内に挿入した細い管が、液体を吸い上げる不快な音を立てている。 それと同時に、血飛沫を上げて吸引ビンの中に排出されていく血液。おそらく、腹腔内は未だ血の海。 2,000cc……既に、致死量を超える血液が失われている。 ここまで出血が止まらないなんて。こんな勢いで出血が続いてしまったら、輸血量が追いつかない! ――――遼は?心臓の方はどうなってるの!? 夫に目を向けたさなか、彼が床に落とした血染めのガーゼが目に飛び込んで、私の心臓がドクッと重い鼓動を打った。 私達には聞き慣れない器具の名を言いながら、二人の執刀医と助手の緊迫した声が掛け合って聞こえて来る。 患者の左側に立つ遼と右側に立つ直江先生。犬猿の仲であるこの二人が向かい合っているだけで、緊張感と恐怖心が更に増す。 「今、どんな状態なんだろう……」 固唾を飲んで見守る麗香が声を落とす。 「分からない……だけど、」―――想像していた以上に悲惨な状態。遼が術中死を狙うまでもなく、本当に助からないかも知れない。 ―――どうして、またここなの? あなた自身が選んだ場所なの? 初めてこのオペ室で楓を見たのは、雨の夜。今と同じ様に無影灯の光に照らされて、弱った小鳥が鳴く様な声で歌を口ずさみ、華奢な体を丸め涙を流していた。 そして雪の夜。手に入れる事は決して叶わぬ男に抱かれ、愛の言葉を囁きながら狂ったように快感の悲鳴を上げていた。 そして今、彼女は同じオペ台の上で命の火を消そうとしている。 最期の声を響かせるかの様に、鳴り続けるアラーム音。 「楓ちゃん……こんな結末、あなたらしくないよ…」 小さく震える声を漏らし、モニターを見つめる目に涙を浮かべた。
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