消えた真実

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「ええ、居たわよ。宮坂先輩はここに何しに来たの?」 麗香は椅子から手を離し、両腕を組んで手のひらを肘に添える。 「それは俺がオペした患者だ。主治医が患者の様態を見に来るのは当然だろ」 麗香の挑戦的とも言える視線を払い除け、遼は冷然とした態度でベッドに近づく。 そして、様態を見に来たと言いながらも、彼は楓の顔には一瞬たりとも目を向けず、人工呼吸器の前に立ち操作パネルに指を置いた。 「受け持ち患者を『それ』呼ばわりするなんて、随分と横暴な主治医ね。それとも、疾うに主治医と患者を超えた間柄だから、関係にピリオドを打とうが意識的には私物のままなのかしら?」 彼の態度に冷酷さを感じたのは、顔を強張らせて黙りこくる私だけでは無かったらしく。麗香はあからさまな嫌味を込めて、機械の設定を行う彼に言葉を投げつけた。 束の間の沈黙が降りた後、 「……何が言いたい?」 遼は苛立ちを顔に貼り付けて麗香に目を向けた。 楓が横たわるベッドを挟んで立つ二人は、険悪な雰囲気を漂わせながら視線をぶつけ合う。 「――どうして。どうして楓ちゃんがERに運ばれた事を知ってたの?どうしてその場に駆けつけたの?どうしてあなたがオペに入ったの?」 ようやく閉ざしていた口を開いた私は、自制のタガが外れた様に彼に畳み掛ける。 不快な汗が滲む手のひらで握り締めるのは、麗香が持ち出して来た新聞紙。 親友と彼との間に声を割り込ませた私は、眉間を寄せて再び唇を引き結んだ。 「病棟から医局に戻る途中、廊下ですれ違ったナース達が噂をしてた。最近退職をしたオペ室ナースが、転落事故で搬送されたと」
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