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「おまえ達は俺を疑いたいのかも知れないが、俺は何も知らない。――それに、妊娠は嘘だった。過去の肉体関係は認めるが、亜紀と離婚をして一緒になろうと仄めかした覚えは無い。お互い初めから割り切った関係だった」
「割り切った関係?そう思っていたのは先輩だけでしょ?」
「いいや。俺は最初から『遊び』だと断言していた。それなのに、この女が姑息なマネを……、俺は加害者じゃ無い。偽装妊娠を使い家庭を壊された。寧ろ、俺と亜紀は被害者だ」
彼は正論を諭す様に言葉を連ねると、その口を歪めて息をついた。
「自分が被害者ですって!?よくそんな言葉をいけしゃあしゃあと言えるわね!確かに亜紀は被害者よ。だけど、元はと言えばあんたの節操ナシが原因でっ――」
「――遼、楓ちゃんと話をしてないって事は、あなたも昨日知ったの?お腹に子供がいないって…」
「亜紀!?今はそんな事を言ってるんじゃ――」
「麗香、良いの。この人がこういう人だって、もう知ってるから。楓ちゃんだって知ってるわ……」……だから、彼の弱味を探り揺さぶる準備を整えていた。
「遼、答えて。偽装妊娠の事を知ったのは、本当はいつなの?」
口を閉ざす彼を見上げ、離すタイミングを失った新聞を更に握り潰して力を入れる。
「本当はいつ?……何だ?その言い方は。さっきも言っただろ。あの夜以来、こいつと話してもいない。偽装妊娠を知ったのは昨日。腹部エコーの映像を見て知った」
「肉体関係を堂々と認めるにも拘らず、子供の存在を確かめようともせず。今の今まで無関心なんて普通じゃあり得ない!」
「今更何を言ってる?
現に子供なんて存在しなかった。俺は、こいつの腹の中を直接この手で探って確かめてやったよ」
遼は軽く広げた両手を目の前まで挙げて行き、不吉な笑みを口角に浮かべる。
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