消えた真実

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もし意識が戻ったとしても、頭も身体も元の状態には戻れない―――。 確かに、脳挫傷が予測していたより軽傷だったと安堵するにはまだ早い。 遼が言う様に、臓器内で作られた血栓(血の塊)は血液の流れに乗って、心臓、肺、脳――生命を維持する重要な器官内で詰まる可能性がある。 その中でも、心臓の中で作られた血栓は、特に脳の血管内で詰まりやすい。そして、運動、言語、思想、感情、理解、記憶、視覚、聴覚……どの部位に、どの程度の後遺症を残すかは、今の段階では予測不可能。 「……体を巡った血栓が心臓に害を及ぼす事だって有る。意識云々の前に、まだ命だってどうなるか分からないわ」 緊張感で顔を固める私の横で、麗香が慎重な声を落とした。 私は楓の横顔に視線を置いたまま、口を閉ざして小さく頷く。 「そう言う事だ。やるだけの事はやった。だが、この先どうなるかは予測が出来ない。ただ一つ断言できることは、俺達とは『無関係』になったと言う事実。……亜紀、俺が言いたい事が解るだろ?」 私とは対極な表情を見せる遼が、諭す様な口振りで言葉を投げかける。 「……」 無関係……それは、邪魔者が消えた事を意味する。夫婦間を妨げる者はいないと。今度こそ、元の鞘に収まると――。 「……私はあなたに言った筈。私の心を脅かすのは楓ちゃんの存在だけじゃない。もう、あなた自体を受け入れられない」 喉の奥から声を絞り出し、眉間を寄せ彼に向ける目を細める。 耳に流れて来るのは寒々とした機械音と、廊下の向こう側から微かに聞こえる人の話し声。 息が詰まりそうな空気の中に本心を放った私は、口を噤んで彼の言葉を待つ。 「――俺自体を受け入れられないか。きっとそう言うと思ったが……まあいい」 彼は何か意図を含んだ様な笑みを浮かべると、私から視線を外し、扉に向かって歩きだした。
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