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遼の人間性を知り尽くしていた彼女が、彼に邪険に扱われた事で傷心自殺なんて余りにも不自然すぎる。
楓は、苦しみから逃れるためだけに飛び降りたんじゃない。私が知ってるこの娘は、決してそんなヤワな女じゃない!
もしかしたら、彼女は最初から遼が自分を助けると知って……
そして遼には、彼女の命を何としてでも助けなければならない、何らかの理由があった?
もしそうだとしたら―――
「……これは、楓ちゃんから遼への復讐なのかも知れない」
深い眠りに落ちる彼女を凝視して、つかえた胸の奥から声を押し出す。
「復讐?……ああ。だから、当てつけでしょ?本気で死ぬ気のない女がリストカットして、彼の心を繋ぎ止めたい心境ってやつ。まぁ、リストカットと飛び降りじゃリスクが違いすぎるけど。……バカバカしい」
「違うの。この娘は馬鹿な女じゃ無い。人の心を操る術を知っている。
目の前が穴あきだらけで上手く言えないけど……」
脳内は完全に混線した状態であるのに、どうしても捨て切れない一つの思考が神経を高ぶらせる。
「……とにかく、ただの自殺じゃない気がするの!」
首を何度も横に振った後、麗香に縋るような目を向けた。
「―――さっきも言ってたわね。何か大切な事を見落としてる気がするって。……だけど、その話はまた後で。そろそろナースが状態を見に回ってくるわ。病室を出ましょう」
麗香は扉に目を向けて声を潜ませる。
親友に鎮静剤を打たれた私は口を噤み、しおらしく頷いて立ち上がった。
―――――
「亜紀、この後はどうする?まだ食事してないでしょ?」
「うん。朝食も取ってないし、少しでも何かお腹に入れないと……」
病室を出た私達は、二人並んでナースステーションの前を通り過ぎる。
「なら、喫茶に寄ろうよ。私も珈琲飲みたいし」
「うん、サンドウィッチぐらい食べ……」―――ようかな。と言いかけたその時、正面から歩いてくる女性と目が合って、思わず言葉を詰まらせる。
言葉を飲み込んだのは、単に目が合ったからでは無い。明らかに私だけを見つめるその目に、異様な威圧感を感じたからだ。
ショートヘアに特に派手なパーツの無い落ち着いた目鼻立ち。プリントTシャツにジーンズと、カジュアルスタイルのその女性とすれ違った瞬間―――
―――あれ?
今の人、確か……
ある映像が頭に浮かび、黙りこくる私は表情を固めた。
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