消えた真実

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「悠希!?あんた、何でこんな所に!」 楓の病室の扉を見つめたまま立ち話をしていた私達。その背後から現れたのは、いつもの如く一人涼しい顔をする直江先生の姿。 「執刀医としてオペした以上、俺は浅倉楓の主治医。オペ後の様子を見に来るのは当然だろ?」 上下紺色のユニフォームを着た彼はそう言って、両手をポケットに突っ込んだままニヤリと笑う。 「主治医……オペ後回診……。つい数分前に聞いたようなセリフね。宮坂先輩といい、相手がどんな厄介者であろうと主治医として全力を尽くす。私情を挟まぬ天晴なプロ意識ね」 聞こえよがしに言う麗香は、口角をクッと引き上げ上目使いで彼を見る。 「えっ!亜紀ちゃんの旦那の方が、俺よりも先に来たの!?」 「ええ、そうよ。今はもう病室には居ないけど。呼吸器の設定だけ弄って、さっさとペースメーカー埋め込みした患者の所に行っちゃった」 「ふ~ん。俺が警察から面倒くさい事情聴収を受けてる時に。あの方は無関心で淡々と一日の業務をこなしてる訳だ。良いね~、マイペースな人間は」 直江先生は唖然とした様子で大きなため息をつき、眉間に深い縦ジワを刻む。 「警察からの事情聴収?直江先生が?」 彼の言葉にいち早く反応を示したのは、麗香では無く私だった。廊下でする話では無いと思いながらも、辺りを見回して声を潜める。 「ああ。大変運が悪い事に、当直医師の中で俺が一番最初に彼女に接触したからな。搬送された時の状態を根掘り葉掘り聞かれたよ。まぁ、そのおかげで、さり気無く警察から色々と当時の状況を聞き出せたんだけど……」 「―――聞き出せたんだけど?何を聞き出せたの?」 勿体ぶった言い方をする彼を内心焦れったく思いながら、詰め寄りたい衝動を押さえ込んで喉に生唾を流した。 隣に並ぶ麗香も沈黙を保ち、私と同じく息を飲んでいるのが分かる。 「垣に耳あり。闇夜に目あり。野次馬が群がる医局でこんな話も出来ないな。――おっ、あんな所に丁度いい隠れ蓑が」 周囲に視線を巡らせる直江先生は、ある扉で視線を止めて、場にそぐわない笑顔を浮かべた。
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