枯れた華

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窓の外は闇に浮かぶ真っ白な世界。 吹雪に晒された薄い窓ガラスが、ガタガタと大きな音を立てて小刻みに揺れる。 畳の香が消え去った、8畳部屋を2つ繋げた古めかしい和室。 「こんな突然に。まだお若いのに…」 「御主人の会社、以前から危なかったって…この景気じゃね」 「過労死…会社に殺された様なものね。まだお子さんもお金が掛かる時期なのに…奥さんもお気の毒に」 ハンカチを片手にすすり泣きが聞こえる中、後ろから喪服を着た見知らぬ大人達のヒソヒソ話が聞こえてくる。 まるで、買い物袋をぶら下げ玄関先で世間話をするかの様な情景。 そして私の隣には、正座をする兄の姿。 兄は項垂れるようにして目を伏せ、膝に乗せた手のひらでグッと黒い制服の生地を掴んでいた。 お兄ちゃん… 愕然とした表情を浮かべ、涙を堪える兄。 その兄に掛ける言葉を見つけられない私は、ただ茫然と兄の横顔を見つめていた。 そして、その視線を白と黄色の菊の花が並べられた正面へと滑らせる。 ……お母さん…
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