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放心状態で棺の前に座り込む母。
「お母さん…」
母の小さな背中に、無意識に震える手を伸ばした。
その瞬間、
「亜紀ちゃん…亜紀ちゃんもお父さんにお別れを言って来なさい…」
母方の叔父がポンと私の肩に手を乗せた。
前屈みになった私の胸元で、セーラー服の真っ白なリボンが微かに揺れる。
「え?…お父さんに……お別れ?……」
肩に乗せられた叔父の手を見つめ、掛けられたそのままの言葉を問い返す。
「……」
私は再び正面に広がる光景へ視線を戻した。
木目が不気味に映る棺。
寂しげな菊に囲まれた写真には、昨夜も晩酌をしながら
「亜紀、早く寝ろよ。朝起きれなくてまた母さんに叱られるぞ」
そう言って、静かに笑った父の顔が…。
え……?
お父さん…
…どうして?
どうしてそんな所にいるの?
「お父さん…お父さんっ!!」
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