黄金色の風【最終章】

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思わずクスッと笑い、瞼の縁の涙を拭う。 「俺、ここへ移り住むよ」 「移り住むって……この田舎に?」 「俺は今、主にプログラミングの仕事をしている。パソコンと機材があれば自宅でも可能な作業だ。たまに東京本社に足を運ぶ事もあるけど、営業をしていた頃のように走り回る事は無い」 彼は私の肩に手を乗せると、私の顔を見つめて言葉を繋ぐ。 プログラミングの仕事……そうか、システムエンジニアの道に戻れたんだ。 「亜紀にはこの村で大切な人達を守っていて欲しい。だから、俺がここへ来ても良いか?」 ここへ来ても良いか? 確かに、私が何処へ移り住み診療所へ通うのは労力が要ること。 だけど…… 「あの、恵子さんは……」 喜びの中に僅かな戸惑いを見せる。 「俺も既に独り身だ。だから、亜紀にこれを」 彼がジャケットのポケットから取り出したのは、手のひらに乗る白い小さな箱。その蓋を開け現れたのは、ダイヤが輝きを放つ可愛らしいシルバーリング。 これは…… 「今泉さん……」 感極まって胸がジンと熱くなる。 「俺と一緒になって欲しい。亜紀を幸せにしたい。もう、絶対に一人にはしないから」 彼の真っ直ぐな瞳が私の心を包み込む。 夢じゃない。幻でもない。 私の目の前にあなたがいる。 誰よりも、自分の命よりも大切で愛しい人。 どんなに苦しくても、淋しくても、この日が訪れるのをずっと夢見て過ごして来た。 「嬉しい……ありがとう今泉さん……」 彼の手のひらに左手を乗せ、流れ落ちる喜びの涙を何度も指でなぞる。 私もあなたを幸せにしたい。 幾つもの苦しみを乗り越えて。今日に繋がる時間を乗り越えて。 眩い太陽の光も、透き通る空の蒼さも、流れる風の囁きも、命を歌う草花や美しい鳥の囀りも。 二人に降り注ぐ全ての祝福は、今日と言う始まりの日を迎えるために――――――。
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