3月10日…お久しぶりです。

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「あ~あ、手首もやってたか」 血に染まった上着を脱がせた直後、今夜の外科当直医の坂上先生がため息まじりに言った。 先生の視線を辿ると、右手首に三本、左手首には二本の切創。 「リストカットしてから首を切ったんですね…。それにしてもこれまた豪快に行きましたね…」 Aさんに心電図と血圧計を着けながら、私と一緒に処置に入ったスタッフの加藤さんが言った。 五本の傷のうち二本は筋層まで達しパックリと大きく口を開け、深さがあるだけではなく長さも10cm程度ある。 「櫻井さん、頸部の傷を見るからここ圧迫してて。大量のガーゼを頂戴」 私は坂上先生に束になったガーゼを渡し、出血の続いている手首の傷をガーゼの上からギュッと圧迫止血する。 深紅に染まった首のタオルをゆっくりと外していく先生。 もし動脈性の出血なら、タオルを外した瞬間にピューッと勢いよく血液が噴射する。 静脈性の出血なら外来の機材で対応が出来る。 しかし、動脈性ならオペ室に運ばなければここでは無理だ。 小手術に使う止血専用機械であるバイポーラは置いてあるものの、電メスも無ければそれ専用の機材が外来には無い。 本来なら救急搬送の依頼を受け、その間にオペ室へ依頼し受け入れ態勢を整えて来院を待つ状態の患者だ。 徒歩で直接来られては、オペ室へ依頼する時間も余裕も無いばかりかスタッフの人員確保すら難しい。
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