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もし動脈性出血ならどうするの!?
今からオペ室待機者に連絡をして、それまでこの人は命はもつの!?
状態によっては、今ここでは対応しきれないかも知れない……
迫り来る不安と焦り。
頭の中で最悪のシナリオが駆け巡る。
「あ~、取りあえずスパッとは動脈切れて無いみたいだな。コアグラ(固まった血液)が詰まってて切れた血管まではっきり見えないけど……三枝木先生は何してる?」
「頭部外傷の患者さんのナート(縫合)してます。酔っぱらって転んでガラスで額をスパッと…そっちも動脈性出血だと思います。血、吹いてましたから」
タオルを外した途端にジワジワと血液が滲み出してはいるものの、噴射を免れてホッと息をつく私。
どうやら、凝固した血液が切れた血管を塞いで、栓の役割を果たしてくれているようだ。
「首と額……額のがよっぽどマシだな。首は俺一人じゃ無理だから、先に腕を全部ナートする。三枝木先生にそっち終わったら直ぐ来てくれる様に伝えて。
あと、今夜のオペ室待機者にも連絡して。出来ればオペ室使いたい」
「はい。あ…、オペ室使うなら同意書必要ですね。既往歴も分からないし…あの付添いさん家族の連絡先知ってるかな」
……なんか、とっても怪しげな付添いさんだったけど。
「私が聞いて来ます。付添いさんって派手な赤いジャンパー来て眼鏡かけてる人でしたよね?」
点滴を刺し終えた加藤さんはそう言って、家族の連絡先を聞くために待合室へ駆けて行った。
処置にあたっている坂上先生は、私と同世代の呼吸器外科医。
医者の世界ではまだ若手と言われる年齢ではあるが、そこそこの経験もあり、活力もあり。
特にこの坂上先生はちょっとやそっとじゃ動じない、落ち着きを漂わせる頼り甲斐のある医師だ。
その坂上先生が、手首から肘辺りまでに刻まれた五か所の傷を猛スピードでチクチクザクザクと縫い続ける。
「大丈夫ですか?分かりますか?」
私は首の傷を圧迫しながらピッチでオペ室待機者への連絡をし、処置を受けながらぼーっと天井を見つめるAさんに声を掛けた。
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