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「「 え――っ!?熊本!? 」」
私と先生の声が重なった。
「……先生、電話で家族からオペの承諾を貰いましょう。精神疾患の他に何か持病が無いかも確認しないと…」
先生にそう言いながら眉間を寄せる私。
「そうだな、あの付添人は家族の連絡先を知ってるって?」
見事なスピードで右手の縫合を全て終えた坂上先生は、左手の縫合に移りながら加藤さんに言う。
「あの人は知らないそうです。…って言うか、何かあの人も変わった人ですよね。こっちが話してるのに目がきょどってると言うか…ニヤニヤ笑ってて怖かったです」
「でしょ!挙動不審だよね!私も一目見た時からそう思った!あの人に聞いてもダメだ。預けてたAさんの携帯貰って来て。携帯から親の連絡先探す」
「そう思って携帯貰ってきました。同じ名字で探しますね」
「あ、多分Aさん意識はしっかりしてるから受け答えできると思う。Aさん、ご家族に連絡をするために携帯電話をお借りしても宜しいですか?」
私の呼びかけにゆっくり頷くAさん。
「お母さんかお父さんの名前を教えてください」
「……母は美津江……父は孝之です……」
Aさんは相変わらず天井の一点を見つめながら、ぽつりぽつりと言葉を落とした。
「櫻井さんっ、美津江さんありました!これ、お母さんですよね?」
「母親に繋がったら俺に携帯頂戴。俺が母親と話すから」
携帯に映し出された名前が母親であることを確認した直後、縫合途中の先生が加藤さんに言う。
「先生、繋がりました!お母さんです!」
加藤さんはそう言って、先生の耳と肩の間に携帯電話を挟む。
「もしもし。わたくし〇〇病院の当直をしております、外科医の坂上と申します。息子さんのAさんの事でお電話を……」
先生は縫合の手を止めず、母親に事情を話し始める。
「加藤さん、押さえるの代わってくれる?私は足からもう一本点滴ルート取って、オペ室の準備を手伝って来るから」
母親からの承諾が得られれば、直ぐにでもオペ室に運び込める。
私は加藤さんと止血する手を交替し、オペ中に大量の補液が出来るように足にも点滴ルートを確保する。
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