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「いや、だからそうじゃ無いんです。本当に僕は〇〇病院の医師です。……お母さん、ちょっと落ち着いて!……いや、だからですね、お宅の息子さんがっ」
母親と会話中の先生の声が次第に大きくなって行き、その口調からは苛立ちさえ感じられる。
ん?……この会話、何かおかしい。
お母さんからオペの承諾をとれないの?会話の状況はどうなってるの?
私と加藤さんは固唾を飲んで、イライラ感と怒りを漂わせる先生の様子を見守っている。
「だから、違いますって!僕はですねっ………なっ!クソっ、切られたっ!」
先生は肩に挟んでいた携帯電話を掴み、それを凝視して眉間に深いしわを刻む。
えっ……切られたって……
「先生?」
「俺を詐欺師と勘違いして信じてくれない」
「詐欺師!?何でっ!?」
「どんなに説明しても、金が目的なのかとか、どこの組織の人間なんだとか、怒涛の如く怒鳴りまくって一方的に電話切られた!あの母親じゃ話にならん!」
「ええ――っ!?なにその詐欺って!?」
あなたの息子が瀕死の状態で手術するから、その手術料金を今すぐ振り込ん下さい!――――ってか!?
このご時世、確かに無きにしも非ずの手口だが……
私は目を皿のようにして憤慨する先生を見る。
「何なんだ!あんたの母親も頭おかしいのか!」
思わずAさん自身に八つ当たりする先生。
「ええーっ!?せっ、先生!それは言っちゃダメだって!本人は一応意識あるんだしっ」
うん、こんな状況だからね、気持ちは分るよ。
必死に助けようとしてるのに詐欺師扱いされて、怒りも十二分に分るけどね。
医療者がそれを口に出してはいけません!
「…まあ、夜分遅くにこんな電話されて気が動転するお母さんの気持ちも分るけど……どうしよう」
加藤さんが顔を引き攣らせて声を漏らす。
「お父さん!お父さんの携帯番号を探すよ。先生、携帯私に貸して!」
お父さんにまで詐欺師扱いされたらどうすりゃ良いんだ!?――と言う不安に駆られながら、私は先生の手から携帯を奪い取った。
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