3月10日…お久しぶりです。

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「あった!『孝之』。これ、お父さんじゃないですか?」 私は父親と思われる番号をAさんに見せ、声を走らせる。 すると、Aさんは目の前に差し出された名前を見て「はい」と、小さな声で答えた。 慌てて表示された電話番号にかける。 頼みの綱は、もうお父さんしかいない! お願い。この電話に気づいて!電話に出て! そう祈りながら、私は握りしめた携帯を耳に当てる。 「―――はい、もしもし」―――刹那に、聞こえて来たのは年配と思われる男性の声。 「こんばんは。夜分遅くに申し訳ありません。私は〇〇病院の外来看護師、櫻井と申します。お電話させて頂いたのは、…」 マニュアル通りの差し支えない挨拶をして、本題に入るべくその電話を坂上先生に渡す。 「わたくし、〇〇病院の当直をしております、外科医の坂上と申します…」 先生は、母親の時と同じ様にナートをしながら事情説明に入る。 「お父さんの方は大丈夫なのかな……また詐欺師扱いされてるんじゃ……」 加藤さんが首に当てたガーゼを押さえながら、不安げに呟く。 私は点滴内に薬剤を詰めながら、会話を続ける先生に目をやる。 「お父さんの方は大丈夫なんじゃない?先生、口調が荒れることなく淡々と会話してるし…」 この様子だと、取り敢えず詐欺師扱いはされていないようだ。 「……はい。では手術が終了したら、もう一度こちらの番号にご連絡いたします」 そう言って先生は電話を切り、私に携帯を手渡す。
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