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「あった!『孝之』。これ、お父さんじゃないですか?」
私は父親と思われる番号をAさんに見せ、声を走らせる。
すると、Aさんは目の前に差し出された名前を見て「はい」と、小さな声で答えた。
慌てて表示された電話番号にかける。
頼みの綱は、もうお父さんしかいない!
お願い。この電話に気づいて!電話に出て!
そう祈りながら、私は握りしめた携帯を耳に当てる。
「―――はい、もしもし」―――刹那に、聞こえて来たのは年配と思われる男性の声。
「こんばんは。夜分遅くに申し訳ありません。私は〇〇病院の外来看護師、櫻井と申します。お電話させて頂いたのは、…」
マニュアル通りの差し支えない挨拶をして、本題に入るべくその電話を坂上先生に渡す。
「わたくし、〇〇病院の当直をしております、外科医の坂上と申します…」
先生は、母親の時と同じ様にナートをしながら事情説明に入る。
「お父さんの方は大丈夫なのかな……また詐欺師扱いされてるんじゃ……」
加藤さんが首に当てたガーゼを押さえながら、不安げに呟く。
私は点滴内に薬剤を詰めながら、会話を続ける先生に目をやる。
「お父さんの方は大丈夫なんじゃない?先生、口調が荒れることなく淡々と会話してるし…」
この様子だと、取り敢えず詐欺師扱いはされていないようだ。
「……はい。では手術が終了したら、もう一度こちらの番号にご連絡いたします」
そう言って先生は電話を切り、私に携帯を手渡す。
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