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「櫻井さん、ちょっと鑷子ちょうだい」
「え……鑷子って……何するんですか?」
何だか嫌な予感がする……
私は眉根を寄せて、差し出された三枝木先生の手のひらを見る。
「結紮が出来そうか見てみるから」
「いや、それは……今、コアグラのおかげでその程度の出血かも知れないし……」
悪い事は言わん!
ここで手を出すのは止めとけ!
―――と、言いたいけれども……ドクターの指示を頭ごなしに突っ返すわけにもいかず。
私は恐る恐る、鑷子を掴んだその手を三枝木先生の手もとに伸ばした。
躊躇いも無く、私の手の中から鑷子を引っこ抜く先生。
「あっ、先生、一番右奥にあるコアグラは退かさない方が良いよ。止めて行くなら手前の……」
と、坂上先生が忠告をしたその直後。
ピューっと、Aさんの首から赤色の噴水が空中に上がった。
なっ、なに!?
突然の出来事に驚いて、大きく目を見開き三枝木先生の手もとを凝視する。
「うわっ、コアグラ触ったらいきなり出血して来た!」
三枝木先生は血相を変え、慌ててガーゼを奥に突っ込む。
「触ったらって…」
違うだろ!
調子こいて、躊躇いもせずコアグラ退けたんだろ!
せっかく蓋してた栓を退けちゃって。だから忠告したのに!このっ、大バカ者めがっ!
決して口に出せない悪態をつき、私は大量のガーゼを掴んで先生の手もとに投げ入れる。
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