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私がオペ室に勤務していたのは10年以上前の事。
しかも、それは以前勤めていた病院での事で、この病院のオペ室の中に足を踏み入れた事など一度も無い。
知っているのは、患者をオペ室に連れて行く時に入る扉一枚開けた入り口付近と、ナースステーション。そして、医療器具や衛生材料を取りに行く中央材料室だけだ。
三枚扉が隔たる向こう側。厳重な空調管理がされた清潔区域に足を踏み入れる時が、また来るなんて……
心臓の鼓動が煽る。
大きく目を見開いて、ゴクリと生唾を飲んだ。
「よし、行こう!とにかく櫻井さんも来て!」
坂上先生がストレッチャーを押して声を上げる。
「は、はい。じゃあ、加藤さん外来は宜しく。とにかく私も行ってくるから!」
顔が引き攣るほど動揺しながらも加藤さんに声を掛け、ストレッチャーの柵を掴んでAさんに付き添う。
とんでもない事になった……
私がオペに入るなんて。
しかも外回り。輸液の管理や記録は出来ても、器具が収納されいてる棚の位置が分からなきゃ、待ち時間が出て足手まといになるだけだ。
だからと言って機械出しに任命されても、二人のドクターのスピードについて行く自信など無い。
Aさんを乗せたストレッチャーは、外来棟を抜けてオペ室に向かう長い廊下を走り抜ける。
背筋も凍るこのプレッシャー。必然的に4年前の出来事を思い出す……
「師長達はあのオペの事を知ってるから、櫻井さんに任せたんだよ」
顔面に不安の二文字を刻む私を見て、矢田部さんが声を掛けた。
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