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「思い出したんじゃない?透視室でやった緊急オペ」
「……はい。丁度今、思い出してました」
Aさんの血圧を測りながら苦笑いを溢す。
「ああ、あれね。湯原先生と兵藤先生がやったやつ。オペ室が満タンで急遽透視室でやった異例のオペだろ?確か、足に鉄筋が貫通してたオジサン」
坂上先生が点滴の速度を調整しながら声を割り込ませた。
―――そう、忘れもしない小山さんのオペ。
建築現場で足を滑らせ高い場所から落下して、下から突き出していた鉄筋に串刺しにされた悲惨な事故。
あの時も様々な不運が重なり、同じくオペ室出身のユリさんと共に私がオペに参加した。※詳しくは【続・救急外来に訪れる人々『櫻の恋の物語』】を御覧下さい。
「大丈夫、大丈夫、矢田部さんがしっかりフォローしてくれるから。ねえ、矢田部さん。それに、櫻井さん外科チームのリーダーでしょ?大丈夫。大丈夫」
こんな緊迫した状態でありながら、…いや、こんな緊迫した状態だからこそか、坂上先生が平常心を保って軽い口調で言う。
「リーダーじゃなくて、サブリーダーですけど…」
「あ、そうだっけ。それに、もう看護師歴20年のベテランなんだから、十分肝が据わってるでしょ~」
「18年です!2歳も年を取らせないで下さい!」
「ははっ、そうだっけ?…オペ室入れば機械の宝庫。パパッと出血止めちゃうよ~」
存在感を漂わせ、目の前でどんと構えて私たちを待つのは、オペ室へ続く大きな扉。
執刀医は呼吸器外科医の坂上医師、脳外科医の三枝木医師。機械出しナースの矢田部さん、そして外回りは、役に立つのか不安な外来ナース、櫻井。
開閉センサーによってゆっくりと開かれていく扉。
Aさんを乗せたストレッチャーは、扉が開かれたと同時にオペ室の中に走り込んだ。
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