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本来は外で使用したストレッチャーを、清潔区域であるオペ室内に入れる事はしない。
――――が、
「もういい!もういい!このままで。時間がない!動かしたら余計に出血する!矢田部さん、このまま突入して良いよね?俺が許可したって師長に言って良いから!」
第一関門の自動扉を抜け、ここからは清潔区域となる第二関門の扉を目がけて突っ込んで行く坂上先生。
「良いですよ!このオペが無事終わったら、床も室内も全部消毒かけておきますから」
坂上先生の声を追って、矢田部さんが首を縦に振る。
ストレッチャーを押す私達は最終関門の第三の扉を抜け、オペ室が並ぶ廊下に足を踏み入れた。
窓一つなく、外の世界から完全閉鎖された夜のオペ室は不気味なもので。暗がりの中で一つだけ灯りを点すのは、『第1オペ室』。
運んだストレッチャーをオペ台と平行に並べてロックを掛ける。
「急いでオペ台に移そう。俺が頭と首を持つから!」
やっとここで脳外科医の使命を感じたのか、私からマイナス評価を食らった三枝木先生がしっかりと頭を固定し、迅速な動きを見せた。
オペ台側には坂上先生。ストレッチャー側に私と矢田部さんが立ち、水平移動をさせようとAさんの背中の下に手を入れる。
腕を差し込んだのは一枚の処置シート越しだが、手のひらにぬるっとした生温かさを感じる。
「うわっ。背中まで血液でびっしょり…」――思わず漏れた、矢田部さんの呟き。
ここまで出血していて意識と血圧を保っていられる事に、驚かずにはいられない。
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