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視野を確保するために、坂上先生がメスで5㎝程皮膚を切開する。
その後に聞こえて来るのは、
ジジ…ジジジジ…ジジジ…ジジジ……
皮膚と出血する血管に電気メスを当てる、蝉の無く様な音。
肉と血の焼け焦げた匂いが鼻腔を突く。
「櫻井さん、開口器を頂戴」
三枝木先生が私に声を掛ける。
「どれくらいのサイズのモノが良いですか?」
「ん~、櫻井さんの好みでイイよ。ここに似合いそうなヤツ」と、坂上先生が傷に視線を向けたまま答えた。
オイオイっ。
開口器(切開した部分を広げたままにしておく器具)のサイズは私の好みで、しかもここに似合いそうなヤツって……
何たるアバウトさ。服の試着じゃあるまいし!
「甲状腺のオペに使う開口器で良いよ。どれか覚えてる?」
困った様子で開口器が並べられる棚の前に立つ私に、矢田部さんの助け舟が出された。
「そうか、甲状腺ですね!覚えてます覚えてます!って言うか、名前は忘れましたけど見たらどれかは分かります」
甲状腺と同じで、首のオペだからそれで良いんだ!
確か、甲状腺で使う器具は……
棚の中にズラリと並ぶのは、消毒済みの滅菌パックに入った開口器たち。私はそれらのパックの間に手を入れて、一つ一つ視線を移しながら記憶を呼び起こす。
「ありました!これですね!」
それらしき物を引き抜き、矢田部さんに見せる。
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