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手術が開始されて15分が経過した頃、
「よしっ、止血完了!バイタルとAさんのレベルどう?」
坂上先生は手に握るモスキート(肉を剥がしたり血管を掴む鉗子)を置いて、一息ついた。
「はい、バイタルも意識レベルも大きな変動ありません。点滴絞りますか?」
コンプレッセン(患者の上に掛ける滅菌シート)の下に潜ってAさんの意識レベルを確認する私は、頭上で縫合処置に取り掛かるドクター二人に声を返した。
「そうだね、両方とも時間40に落として」
「はい、では40に落とします」
コンプレッセンを潜り抜けた私は点滴スタンドの前に立ち、ぶら下がる二つの点滴の速度を、1時間で40ml体内に入るように調節をする。
「輸血が届きましたっ!」
部屋の扉が開かれると同時に飛び込んで来た声。
視線を向けると、扉の前には息を切らして走り込んで来た加藤さんの姿がある。
「おお~、グッドタイミング!直ぐに輸血繋いで」
「あ、先生。Aさんの会社の社長さんがさっき外来にみえました。ご両親が遠方に住んでるので、社長さんが保護者兼責任者として話を聞きたいそうです」
「そう、それは良かった。あの付き添人じゃ話になりそうにないしな。オペ終わったら父親に電話して、それから社長さんに話すよ。外来で待って貰って」
針糸で傷を閉じて行く先生は、私に輸血パックを渡す加藤さんに指示を出す。
「外来は大丈夫?外科医が二人オペでいなくなって」
輸血を点滴に繋ぎながら、私は眉根を寄せて加藤さんに声を掛ける。
「大丈夫ですよ。病棟当番の先生が話を聞いてヘルプに来てくれてます。内科と小児科の方も落ち着いて来ましたから」
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