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今夜の当直医が坂上先生で、本当に良かったと思う。
正直、ドクターの中にはテンパって、周囲に当たり散らしてチームワークを乱す精神的に未熟な人もいる。
救急外来は特に、どんな悲惨な状態に遭遇したとしても、実はどんなに内心テンパっていたとしても、周囲のスタッフに冷静さを保たせることが重要。
それが、救急で指揮を執ると言う事だと思う。
それは医師としての経験だけじゃ無い。経験を積んだ筈のいい年したおやじドクターでも、テンパる人はいつまでたってもテンパる。
坂上先生のようなドクターを見ていると、もともと救急に向き不向きの性格があるのだと改めて感じる。
「今日の当直、坂上先生で助かったね」
Aさんをストレッチャーに移しながら、矢田部さんがこっそり耳打ちをする。
「私も今、そう思ってました。三枝木先生も腕は悪くないけど…大切なコアグラ退かしちゃったから、今夜はマイナス90点!」
無事オペを終えてホッとしている様子の三枝木先生を見た後、私は矢田部さんに小声で言って意地悪気に笑う。
「自分で自分の首を切るなんて、こんな危ない事は二度としちゃ駄目だよ!」
ストレッチャーを押しながら、坂上先生がAさんに説教交えて念押しする。
うんうん。
こんな事しちゃダメダメ!
それを聞きながら、相槌を打つ私と矢田部さん。
「もっと自分を大切にしなきゃ。ご両親も心配してるから」
うんうん。
親から貰った体は大切にしないとね!
「手首は切っても簡単に死なないけど、首は本当に死んじゃうよ」
うんうん。
本当に死んじゃうよ!…って言うか、本当に死にかけてたし。
「首は駄目!切るなら手首までにしといて!」
うんうん、
………ん?
「「ええ―――っ!?」」
重なった私と矢田部さんの声。
「せ、先生!手首も駄目だから!どこも切っちゃ駄目だから!そんな事言っちゃ駄目っ!!」
仰天の声を上げた私は、ブンブンと頭を横に振る。
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