3月10日…お久しぶりです。

25/27
前へ
/704ページ
次へ
今夜の当直医が坂上先生で、本当に良かったと思う。 正直、ドクターの中にはテンパって、周囲に当たり散らしてチームワークを乱す精神的に未熟な人もいる。 救急外来は特に、どんな悲惨な状態に遭遇したとしても、実はどんなに内心テンパっていたとしても、周囲のスタッフに冷静さを保たせることが重要。 それが、救急で指揮を執ると言う事だと思う。 それは医師としての経験だけじゃ無い。経験を積んだ筈のいい年したおやじドクターでも、テンパる人はいつまでたってもテンパる。 坂上先生のようなドクターを見ていると、もともと救急に向き不向きの性格があるのだと改めて感じる。 「今日の当直、坂上先生で助かったね」 Aさんをストレッチャーに移しながら、矢田部さんがこっそり耳打ちをする。 「私も今、そう思ってました。三枝木先生も腕は悪くないけど…大切なコアグラ退かしちゃったから、今夜はマイナス90点!」 無事オペを終えてホッとしている様子の三枝木先生を見た後、私は矢田部さんに小声で言って意地悪気に笑う。 「自分で自分の首を切るなんて、こんな危ない事は二度としちゃ駄目だよ!」 ストレッチャーを押しながら、坂上先生がAさんに説教交えて念押しする。 うんうん。 こんな事しちゃダメダメ! それを聞きながら、相槌を打つ私と矢田部さん。 「もっと自分を大切にしなきゃ。ご両親も心配してるから」 うんうん。 親から貰った体は大切にしないとね! 「手首は切っても簡単に死なないけど、首は本当に死んじゃうよ」 うんうん。 本当に死んじゃうよ!…って言うか、本当に死にかけてたし。 「首は駄目!切るなら手首までにしといて!」 うんうん、 ………ん? 「「ええ―――っ!?」」 重なった私と矢田部さんの声。 「せ、先生!手首も駄目だから!どこも切っちゃ駄目だから!そんな事言っちゃ駄目っ!!」 仰天の声を上げた私は、ブンブンと頭を横に振る。
/704ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2243人が本棚に入れています
本棚に追加