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翌日。
何故か俺は警察署に任意同行を求められ、取調室の中にいる。
「あのぉ、どうして俺が、」
二人の男に尋ねる。
「貴方が彼に『ガツンといってやれば良い』と言ったのは、事実ですか」
目の前の厳つい男が、鋭い眼差しで俺を威嚇する。
「た、確かに言いましたけど、それは言葉のアヤってやつで、」
ふぅ、と溜め息が聞こえてきたと思ったら、違う男が言った。
「彼はあなたの言葉に従っただけだ、と言ってますよ」
どういう事だ、意味が分からない。
唖然としている俺に、厳つい男が言い放った。
「彼は、あなたに、婚約者の殺害を示唆されたと言っていますよ」
「はっ」
何故だ。
いつ、俺がそんなことを言った。
「『ガツンと行って殺れば良い』と言ったのは間違いないんですね」
再度繰り返される言葉に恐怖を感じる。
嗚呼、そう言うことか。
ヤツは俺のアドバイスを明確に遂行したのだ。
婚約者に文句を言わせない為に。
『ガツン、じゃなくて、ゴツン、でした』
意味が、繋がった。
痛い位に心臓の音だけが頭に響く。
「あなたを、殺人教唆の疑いで緊急逮捕します」
両手に冷たい金属製のモノが嵌められる。
「精々頑張って、囚役をこなせよ」
まさか、あのアドバイスが自分の首をしめることになるとは思わなかった。
不意に、アドバイザーというライセンスの意味が分かった気がした。
歩きながら、窓に目を向けると、蒼空を白鳥が群を成して飛んでいるのが見えた。
『最近の若者は分からない』
自分の軽率さが実に沁みた。
終。
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