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そんなイタズラ心を表に出せるぐらい自分を取り戻した朝日は、体育座りの体勢からスッと立ち上がり俺の目の前に立った。
「せっかく海に来たのですから、私達も遊びましょう!」
完全に立ち直ったのか?それとも諦めたのか?それは朝日自身しかわからない。
ただ俺がわかったのは、その立ち姿勢がその笑顔がいつもの朝日のものである事だった。
「さあ、空くんも立って下さい」
そう言いながら朝日は俺に向かって手を伸ばす。
しかし、俺は体育座りのままだ。
「もう!私もまだ恥ずかしいですけど、ここまで来たからには楽しまないと!ほら、空くんも立って下さい!」
「……………………」
そう言われても俺は立ち上がるどころか、逆に体育座りを強固にする。
「立って下さいよ~」
むくれたように頬を膨らます朝日だが、それでも俺は立ち上がらなかった。
いや……本当は立ち上がりかけている……思春期真っ只中の愚息が……
少しの刺激で直立不動になりそうなぐらい臨戦態勢だ。
それは仕方ないだろう。目の前に立つ朝日をローアングルから見ているのだから。
下から見上げる朝日は、太陽の光が陰影を浮かび上がらせ、少ないボリュームのはずなのにそれはもう女性らしい身体を作り出しているのだ。
それに反応しなければ、俺は男として生きていけない!
頑なに体育座りで立ち上がるのを拒絶する俺に、朝日は強行手段をとった。
「もう!」
とても素早い動きで俺の手首を掴み、少し捻った感覚を残したかと思った瞬間、身体の力が抜けたように軽々と朝日に引き上げられたのだ。
夕日の力任せとは違う朝日の合気道技術で立ち上がらされた俺。
一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。
だが、次の瞬間これから起こる事が容易に想像できる。
体験した事の無い力で無理矢理立たされた俺は、案の定バランスを崩したのである。
足が地に着かないまま、俺は前のめりで倒れていく。
当然、朝日に向かってだった。
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