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「やっぱり目立ちますね……」
普段ならそんなに目立つ事の無い傷だが、このような晴天の下だと傷の真皮が光を弾くように浮き上がらせていたのだ。
そんな傷痕を海は神妙な面持ちで眺めている。
吐息がかかるぐらい近距離で見ている事など、自分でも気付いていないのだろう。
あまりに真剣な表情は、海のトラウマを浮かび上がらせる。
徐々に暗くなる表情。
それは俺が1番見たくない表情だった。
確かにこの傷には海が無関係とは言えない。
しかし、ここまで傷が残るぐらいの怪我にしたのは全て俺の責任だ。
あの時、海をかばって肩を怪我したという事実は変えられない。それでも、その後直ぐに治療をすれば……試合で投げなければ、こんな手術を要する怪我になっていない可能性もあったのだ。
それでも俺はあの時投げた。
自らの意志で……自らのわがままで……
だからこの傷は俺自身の戒めなのである。
自分のとった軽率な行動が、自らを傷付け仲間を裏切り、何より妹に暗い影を落とした。
一生消える事無いこの傷は、俺にとって深い闇なのである。
そう……俺にとって……
だからこそ、この傷で海が暗い顔をするのが許せなかった。
海の性格上、責任を感じているのは本人以上に知っている。だからといって、そんな苦しいような辛い表情を浮かべさせるわけにはいかなかった。
俺は乗り越えた。
この傷から。
支えられ背中を押され前から引っ張ってもらいながら。
だから海にも乗り越えてほしい。
俺と同じように周りの仲間に助けてもらいながら。
まだ乗り越えれない海を真っ先に支えるのは兄であり張本人である俺の役割だ。
そう思った俺は、今から考えると愚かというか当然というか……海の逆鱗に触れる行動を起こしてしまっていた。
吐息がかかるぐらいの近距離にある海の顔。俺は肩を動かし海の柔らかな唇に自分の肩を触れさせたのだった。
「なっ!?なななな!?」
「うっし!これで完治したな!」
場を和ます小粋なジョークであり、話題を変える行動だった……と思っていたのは自分だけらしい。
真っ赤になった海の顔が元に戻ったと同時に、とても素敵な笑みを浮かべたのである。
当然、心内にある修羅を前面に出してだった。
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