おまけ

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そんな思いが表情に出ていたのか? 優しく触れられる感触の方に顔を向けてみると、柔らかな笑みを浮かべる海がいた。 「兄さん……相変わらず人の事ばかり考えてますね」 「そういう海も相変わらず心を読んでくるな」 そう言いながら互いに笑みを浮かべる。 それは満面の笑みじゃなく、自然に出てきた笑み。 兄妹の仲で交わす笑みだった。 「そろそろ自分の事だけを考えないといけませんよ兄さん」 「そりゃ無理な話だ。だって俺だからな」 妙な自信。しかし、それを納得してしまった海は笑みだけじゃなく、口から軽い笑い声まで漏れてしまう。 「くすっ、まったく兄さんたら。そんな事だと、いつかましろさんにも愛想つかされますよ」 「かもな」 「婚期が遅れそうですね」 「まあそうなったら海と一緒に静かに暮らすさ」 「えっ?嫌ですよ私は」 「あれ?」 さっきまでの兄妹愛はどこへ消え去ったのだろうか? とりあえず、今ここには存在していなかった。 その証拠に、さっきまで海が浮かべていた柔らかな笑みは消え去り、とても不愉快そうな苦虫を潰した表情になっていた。 心なしか少し距離をとられたような気もする…… これだけの晴天なのに、俺の周りだけ真冬のホワイトアウトのように視界が見えなくなっていた。
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