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「菊弥、ちょっと」
桜子様は執事を呼びました。
菊弥と言うのは本名ではございません。
桜子様が幼いときに路上で拾った孤児でした。屋敷で風呂に入れたところ、これが驚くほどの美少年。
菊人形のようだと名付けられたのだとか。
それから桜子様の小間使いのようなことをしていました。
栄養状態が悪かったので子供に見えていただけで、二年もしないうちに背も伸びて立派な青年となりました。
また字や物事の呑み込みが早く無駄口も叩きませんので旦那様の信頼も得て、今では執事となっておりました。家の方でも菊弥さんは使用人に慕われておりました。
「どうにかして、瑠璃お姉さまをあの男から取り戻せないかしら」
爪を噛む桜子様を見ながら、菊弥さんは顎に手をあてて笑みを浮かべました。
「あの男が経済力という首輪を付けているのなら、それを切り、もっと良い首輪を差し出しましょうか」
菊弥さんは頭もよく、顔も美しいのですが、ただ一つの欠点がありました。
桜子様に忠誠を誓い、その異常な欲望を叶えることこそが生きる意味だと信じているのです。
そうして可哀想な瑠璃子様の運命は、また転がり堕ちたのでした。
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