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桜と瑠璃
◆
大正11年、帝都春爛漫。
花のように新しい文化が咲き誇っておりました。
下賜された上野公園の桜は人々の目を楽しませていました。
桜というのは不思議な花でございます。淡い色は春の光と陽気に溶けて、見ている者の思い出まで危うくするような心地に誘います。
また、夜はうってかわってドキリとするほど一つ一つの花が精巧に出来ていることに感心し、妖艷さに身のうちがザワザワしたものでした。
花ひとひら。
窓枠に積もった花びらは上野のものではございません。
近くの川沿いのものでしょう。
この屋敷にも、二つの表情を持つお嬢様がいらっしゃいました。
黒目 桜子 様です。
『痛いわ!もう下がりなさい!!』
『も、申し訳ございません、お嬢様』
椅子に掛けた桜子様はご立腹で低頭のメイドを蹴りました。
桜子様はメイドに足を洗わせるのですが些細なことで叱りつけます。
シャボンを流した後に口で奉仕させるのですが、豆のような小さな指を舌で絡めとるのは難しく、つい甲に歯をたててしまったのでしょう。
蹴られたメイドは恍惚とした表情で今度は足首から指先までを、尖らせた舌でなぞりました。
「ふふ、上手ね。そうだわ、お前は面差しが瑠璃お姉さまに少し似ているから、明日は着物でさせるわ。」
メイドの舌は一瞬止まりました。
再開された時には桜子様はうっとりと目を閉じ、
想像の『瑠璃お姉さま』に吐息を繰り出すのでした。
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