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塩見さんはレンズの奥の瞳をより不安げに瞬かせたが、ゆっくりと近づいてくる車の光を見て、「分かりました。お気をつけて」と頷いた。 「…では。またお待ちしております」 見送られて、すぐそこのバス停まで歩き出す。 光がどんどん近づいてきて、あと少しで到着する、という時。 突然後ろからふっと強い風を感じた。 ぱっと振り向くと、もの凄い勢いで首と口元に手を回され、バス停脇の茂みに投げ込まれる。 全身に衝撃を感じ、痛みに歪めた視界に映ったのは…古本屋にいた男性客だった。 体を押さえられ、掴むようにして口を塞がれた私の叫び声は誰にもどこにも届かない。 錆びたバスの車体は、乗客のいない停留所を通り過ぎて行った。 田舎の裏通りの、深い茂み。 顔もよく見えないほどの暗さで、男が私の上に馬乗りになった。 重くて、苦しくて、怖くて。 でもどんなに叫んでも誰にも聞こえなくて。 ワンピースのボタンに、ぐっと手がかけられた。 必死に身をよじって抵抗しながら、ぎゅっと目を閉じたその時。 「お前何してんだっ!」 バキッ! 私の上にいた男が呻いて崩れ落ちる。 そこにいたのは、荒い息の塩見さんだった。
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