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思いきり頭を蹴られた男が、感情のこもらない声で「何だよオマエ」と言いながら立ち上がった。
さりげなく私を茂みの奥に押し込んだ塩見さんは、男の前にすっと立つ。
「あんたこそ何やってんだ、女の子襲いやがって」
初めて聞く、荒っぽい口調。
男はしばらく黒縁メガネでエプロン姿の彼を見ていたが、やがてニィと口角を上げた。
「兄ちゃん、さっさとおウチ帰んなら痛い目に合わせねぇでやるよ」
「アホかお前」
吐き捨てた塩見さんに男が飛びかかった。
「塩見さんっ!」
塩見さんのケガするところなんて見たくない。
だけど、私の叫びとは裏腹に。そして真逆に。
彼は男を容赦なく地面に叩きつけて肩の関節を外した。
悲鳴と肩の外れる音が秋の夜道に響く。
「…明日の朝までそこで寝とけ」
低く言い捨てた塩見さんは、つい、と地面に指先を這わせた。
拾い上げたのは、おそらくメガネ。
ありゃ、割れてる…と呟いた背中がゆっくり私のほうを向く。
「…もう、大丈夫だから。帰りましょう」
屈みこんで差し出された手に、怖くて凍り付いていた涙があふれ出してきた。
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