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「…大丈夫?」
一旦古本屋さんに戻ってきた私と塩見さん。
椅子に座った私の顔を覗き込むようにして、優しい声で尋ねられる。
「はい…。それよりごめんなさい、メガネ…」
塩見さんの黒縁メガネは男を投げ飛ばした際に外れ、砕けていた。
二重瞼の柔らかな茶色い目が直接私を映し出す。
「気にしないで下さい…それよりも、すみませんでした」
バスに乗り込むまでついて行かなくて、と絞り出すように塩見さんが呟く。
「あの男、俺も何だか嫌な感じしてたんです。
でも、バスはすぐ目の前に来ていたし、一つしかないドアにいる俺の前を通ってまでそっちへ行くとも思えなくて。
吉野さんを見送って店に戻った後、閉じてあった窓が一つ開いていたから…もしかしてと思って飛び出しました」
申し訳ありません、と深く頭を下げる塩見さんに、私は必死で首を振った。
「謝らないで下さい…私、な、何ともなかったんだから…」
強張ったままの顔を無理やり笑顔にして言うと、困ったように彼が目を細めた。
「もう怖くないから…俺の前では無理しないで」
そしてそっと包むようにして背中に優しく腕が回される感覚。
ふっとほどけるように、また涙が零れ出た。
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