*

2/3
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
小さな駅から一本裏に入った道沿いに。 そのこぢんまりとした古本屋さんはあった。 「いらっしゃいませ、こんばんは」 ガラス戸を引いて店の中に入った私に、本の奥から男性の柔らかな声がかかる。 導かれるように進むと、本の積まれた机に声の主はいた。 ふわふわ髪に黒縁メガネの、大学生の私と同じぐらいの年の彼。 声同様におっとりした風貌の彼は、私を見て小さく笑った。 「…何かお探しで?」 「え…どうして分かるんですか」 「お客様、『誰か助けて』とお顔に書いてありますから」 恥ずかしくてぱっと俯くと、またくすっと笑われる。 でも、ここは恥を忍んで。 「あの…大学のレポートを書かないといけなくて…書誌学の文献を探してて、」 最後まで言い切る前に、彼は「かしこまりました」と答えつつ机上の山積みの中から数冊の本を引き抜いた。 「どうぞ。これは僕の私物なので、お代はいただけませんが返却お願いしますね」 初対面なのに躊躇なく自分の本を貸してくれる彼に、私のほうが戸惑ってしまう。 「や、悪いです。どうして…?」 「僕も同じようなレポートを去年書きましたから。多分、僕はあなたと同じ大学の同じ学部ですよ」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!