第1章

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だいたい、あとから来たのはそちらの方で、こっちが先客だ。 天気がよかったから、たまには外で食べようかとこの公園に来て、木陰のあるこのベンチに腰掛け弁当を広げたところに彼女らがやってきたのだ。 三人いるうちの一人が律子の隣にドッカリと腰掛け、こちら側としては、場所をずらしてスペースを空けてやったのに、 「あーあ、座れねえじゃん」 と、大袈裟な溜息を吐き、これ見よがしに目の前にしゃがみ込み、あまつさえ自分の鞄を地面に敷いて、尻をつけたのはお前らじゃないか。 彼女らはぺちゃくちゃとしゃべりながら、弁当を食べている人の目の前で、フリーマーケットよろしく荷物を広げた。 それは、今から写生大会でも始めるのかと聞きたくなるほどの、様々な色のシャドウやペンシルだった。 そうして、その辺は実に若い女の子らしく、あれ貸してとか、この色チョーやばいとか嬌声をあげながら化粧をし始めた。 綺麗な黒目を真っ黒に塗りつぶし、そのままで充分眩しいぐらいに輝いている肌なのに、わざわざ汚すようにラメを施し、グロスを乗せ、仕上げにはウイッグを装着した。 ここに来たときには間違いなく高校生だったはずが、出来上がったら『なんちゃって女子高生』に見えてしまうのが、なんとも惜しいじゃないかと思っていたところに、因縁をつけられたのだ。 「なんで弁当とか食べてるわけ? 意味分かんないしぃ」 それは今が昼時だからだ。あんたらは昼飯を夜食べるのか? こっちだって質問の意味が分からないし。 「空気読めって感じ?」 なんで見ず知らずのなんちゃって女子高生の空気を読んで自らここを立ち去らねばならないのか。 それに疑問系でしゃべるな。 すべてのセリフを心の中で述べながら、黙って弁当を頬張っていると、地べたにしゃがみ込んでいた子が立ち上がった。 一応スカートを直しているところは女の子として認めてやってもいいが、パンパンと払った埃がこちら側に飛んできたのでむっとした。 「なんだよ、文句あんのかよ」 わざとはすっぱに構えて、凄もうと試みたんだろう。だけど口を半開きにしながらしゃべるものだから、 「あんだお、まんくあんおかおぉ?」 という、非常に間抜けな発音になってしまっている。 ビビるどころか憐れみを誘うような有様だった。
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