第1章

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「ちょ、こいつ笑ってるし。キモいんですけど」 こんな風に人に因縁をつけてこの場から追い出したとして、この子たちは気分がいいんだろうか。 後で嫌な気分にならないんだろうかとふと思い、すぐさまでもたぶん、自分たちの愉しいことにすぐに夢中になり、こんなささいなことなど一瞬で忘れるんだろうなと思い直した。 どう因縁をつけられても、開けてしまった弁当を持ったままウロウロするのが嫌だから、ギャイギャイ言われながらでも、食べきってしまおうと決め、今少し居座ることにした。 こっちも我慢をしているのだから、あんたたちもあと少しだけ我慢しろ。 と、心持ち急いで口を動かした。 「高宮さん?」   三人の女子高生に取り囲まれながら、一心不乱に弁当をかき込んでいる頭の上に、自分の名を呼ぶ声が降ってきた。 顔を上げると男が一人立っていた。 「ああ」 知っている顔だ。名前はすぐに思い出せなかったが、確かに見知った顔だったから、ほっとして声が出た。 やはり多少は恐かったらしい。 「どうしたんですか?」 明らかに異常な状況を察しているらしく、彼はケバイ三人組を怪訝そうに見回している。 見回された三人組は、心持ち大人しくなり一つに固まった。 ニヤニヤしながら前髪をいじったりしている。 「お弁当食べてたんだけど。外で食べようと思って」 「そうですね。今日は天気もいいですから」 軽い受け答えのあと、で? というように、また視線を彼女らに向けている。 身体が大きい。 百八十は優に超えているだろう。 そういえば、学生の頃は格闘技系をやっていたという話を思い出した。 あれ? ラグビーだったっけ?  どちらにしろ体格がいい。 面立ちは優しげだと思うのだが、身体の迫力がまず先に押し出されている。 たぶんその迫力に押されたのだろう。 じっと見つめられて、女子高生たちは完全に大人しくなった。 よくよく見れば、彼だって本当に温厚そうなんだし、なにもそこまであたふたと逃げ出さなくてもいいのにとこちらが思うほど、彼女たちはそそくさと広げていたお店をたたみ、その場から立ち去った。 威勢はよかったが、やはり根は可愛い学生なのだろうと少しだけ微笑ましい気持ちになった。 それとも、自分には感じ取ることの出来ない何か危険なものを、若さ故の本能でかぎ取ったのか。
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