金花と煌めく

5/8
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「これから、どんなことが起こるだろう。どんな人と出会うだろう。私に、どれほどのことができるのだろうか、と」 少女は空楽を見た。 深淵な瞳。水底は暗く、重い色でも、水面は日を照り返して清々しく輝く。 「私は、花のようになれたら。ただそこにあって人の心を癒せる、花のように」 少女は声を弾ませて微笑んだ。 空楽は嘆息を漏らした。 美しかった。これまで見てきたどんなものよりも。姿形のことではない。胸の奥に勝手と想いがこみ上げてくる。 「もっと、笑っているのがいい。あんたが悲しい顔だと、俺まで湿っぽくなるようだ。だから、笑っておくれ」 空楽は指遊びをする。 「優しいひと」 少女の言葉に空楽は立ち上がる。 「優しいもんか。俺を誰だと思っている。名を聞けば、誰もが眉をひそめ、血相変えて逃げ出すんだ」 空楽は息巻いたが、別の者の呼ぶ声に少女の関心は移された。 「父が、探しています」 少女は立ち去ろうとした。 「だめだ。行かないでくれ。俺のところにいてくれよ」 引き止める空楽に少女は眼差しを緩める。 「必ず、また、会えるときがきます。だから、きっとまた、会いましょう」 少女は約束を残して、花の影の中へと消えていった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!