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「これから、どんなことが起こるだろう。どんな人と出会うだろう。私に、どれほどのことができるのだろうか、と」
少女は空楽を見た。
深淵な瞳。水底は暗く、重い色でも、水面は日を照り返して清々しく輝く。
「私は、花のようになれたら。ただそこにあって人の心を癒せる、花のように」
少女は声を弾ませて微笑んだ。
空楽は嘆息を漏らした。
美しかった。これまで見てきたどんなものよりも。姿形のことではない。胸の奥に勝手と想いがこみ上げてくる。
「もっと、笑っているのがいい。あんたが悲しい顔だと、俺まで湿っぽくなるようだ。だから、笑っておくれ」
空楽は指遊びをする。
「優しいひと」
少女の言葉に空楽は立ち上がる。
「優しいもんか。俺を誰だと思っている。名を聞けば、誰もが眉をひそめ、血相変えて逃げ出すんだ」
空楽は息巻いたが、別の者の呼ぶ声に少女の関心は移された。
「父が、探しています」
少女は立ち去ろうとした。
「だめだ。行かないでくれ。俺のところにいてくれよ」
引き止める空楽に少女は眼差しを緩める。
「必ず、また、会えるときがきます。だから、きっとまた、会いましょう」
少女は約束を残して、花の影の中へと消えていった。
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