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それ以来、空楽は何をするのも楽しくなくなった。
警吏に追われながら暴れまわることも、取り巻き連中とどんちゃん騒ぎすることも。
用を持たずに、街をさまよっていた。
心の中にいる少女が悲しそうな顔をする度、空楽の火が消えた。
空楽は往来ですれ違う者を気に留めるようになった。
笑いながら話をしている女たちを見る。人がどんなときに喜ぶのかが知りたかった。
ある日、空楽はならず者に声を掛けられた。
顔に見覚えがあるような、ないような。いつの知り合いなのか、まったく思い出せなかったが、兄貴と頼ってくるからにはどこかで世話してやった輩なのだろう。
青黒い肌をしたそいつは、近頃、遠方から街へ上がってきたばかりの裕福な貴人の話をした。よくよく聞いていると、どうやら面倒事の片棒を担ぐことになりそうだった。
「兄貴の名も知らずに、ここでやってけるかい。街の慣らしを教えてやるのさ」
そいつは卑しい声で笑う。
「なあに、兄貴なら、何をしでかそうとも大事でないはず」
空楽はそいつと、そいつの連れとを率いて貴人の屋敷へ押し入った。
手向かう屈強な傭兵を難なく退け、目障りとあらば、逃げる家人や使用人も傷つけた。
空楽は寝室に隠れていた主人と夫人に出くわした。
二人は命乞いをした。
空楽の目に夫人が髪に差していた飾りが映る。蓮華の彫り物がしてある純金の櫛。空楽はその櫛と引き替えに二人を見逃した。
貴人の家からぶんどってきた宝は、共に乗り込んだ奴らにみんなくれてやった。
空楽は金の櫛だけを持ち帰った。
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