一章

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ふわり、と一片の花びらが舞った。 川沿いに並ぶ桜が今や全盛期を迎え、薄紅色の花を枝の先までいっぱいに咲き誇らせている。 穏やかな風が川を渡り、花々を揺らした。4月独特の柔らかな春がその町に訪れていた。 「行ってきます」 彼女は微笑んで玄関の戸を閉め、鍵をかけた。ふと空を見上げると、鳥が遥か上空を飛んでいる。少し霞のかかった薄青い空に、微笑みがさらに広がった。 彼女の名前は広笛真紀(ひろぶえ まき)。不安なことや辛いことがあっても、にこやかに過ごすことのできる女性である。優しく、まっすぐ育つように。そう両親が願ったとおり、美しく育った。
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