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【弐幕】彼方 -First impression-
空が三原に六月の雨の日が降る夜。
結城雅弘は代理で店長をやっている喫茶店『トリップ』の店内の閉店業務を終え、表通りの看板を仕舞いに外に出る。
晴れの日なら潮の匂いもするのだが、生憎の雨。業務をやることに問題はないが、今日の売り上げを考えるとやはり頭が痛い。一年前に旅に出て行ってしまった本来のオーナー兼店長が帰ってくる前に、店が残っているといいのだが…そんな事を考えながら、置き看板を畳み、店の中に入れようとしたその時。
ふと、臭いがした。獣の様な、それで居てとても危険な臭いである事に雅弘は一瞬顔を顰める。
――気配が動いた。
それは、空から、雅弘の目の前に舞い降りた。
赤い眼が、ぴたりと雅弘の目と合う。
ぴしゃっと地面の水が跳ねる。それは薄汚れた濡れた布切れを全身に覆い、隠れた顔の合間から赤色の瞳で結城を睨み付ける。少女のような体躯。雨の匂いに紛れて、わずかに血の臭い。常人には気が付かないかもしれないが、其れは鎬を削るかの様な争いの跡である事は明らかだった。
そう、これは命のやり取りの臭いである。
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