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「何故、驚かぬ?」
「何故そんなに怯える? 別に危害を加えるつもりは無いぞ」
「この、ワシが怯えるだと? 随分と嘗めた口を利くではないか、人間!」
覇気を込めた言葉にも雅弘は眉一つ動かさない。
「…まぁ、そうだな。信用出来ないのは理解している。そして、何か揉め事を抱えているのも察するが、そのままでは命を落とし兼ねないのだろう? ならば、此処は利用すると言う選択肢が理想だと思うが、違うか? 途中気に入らない事があれば、いつでも飛び出せばいい」
些か男の推察は的外れだが確かにその提案は理想的、と言える。只一つの不安要素を取り除いては、だが。
「飛び出すだけとは、限らんかも知れんぞ?」
「…何者であれ、理由が無ければ殺り合う必要は感じない、そう思わないか?」
殺気を放っても軽くいなされてしまう。この男は場慣れし過ぎている。今の人里にも命を取り合うなんて事が存在するのか? 少女の思案は止まらない。
「意外と言うか、ただ呆れるばかりじゃな。とんだお人好しか、それとも…?」
「想像は自由にして貰ってかまわないが、余計な勘繰りは杞憂に終わる。しかし、それで気が澄むなら警戒は常にしておいて損は無い、か」
「寝首を掻くかや?」含み笑いを見せる少女に雅弘はまっすぐな目で少女を見据えた。その黒い瞳に揺らぎは無かった。
成る程、本当に裏は無い…らしい。まったくもって理解に苦しむ。
少女は目の前にある食事を流し込むように口に運ぶ。舌が痺れるような熱さが、心に揺らぐ油断を掻き消す。…そう、杞憂でも人間に油断しては…。
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