【弐幕】彼方 -First impression-

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「おい、どうするのじゃ?」  ああ、使い方が解らないのか。――理解した雅弘が蛇口をひねると水が流れ、段々にその水は熱を帯びて蒸気を上げた。排水をシャワーに切り替えると雅弘は湯の温度を確かめる。その零れた湯を少女が出を延ばして汲み取るように手を伸ばした。 「おお」  驚いた声を上げる。 「少し、傷に触るぞ」 「あ、…ぅくッ」  少女の頭から湯を浴びせると少女は目を瞑り身体を振るわせた。痛みか熱さか、歯を食いしばる様に背を丸める。少女の身体から流れ落ちる湯は泥と血で染まり、排水溝に流れる。  雅弘の手が傷口の周りをなぞる様に触れ、汚れを落とす。 「染みるかもしれんが、全身を洗うぞ」  雅弘の口は少しだけ緩んでいた。  幼き日、今の養父に初めて洗われたその時、自分もこんな反応だったような気がする。それがなんだか今の雅弘には懐かしく苦い思い出だ。 「…っ! 馬鹿者、いきなり頭から湯を掛ける、っぷ! …コラ! 聞いておるのか!」 「あ、ああ、すまない」  ほんの僅かに昂揚した少女は、雅弘を睨むが洗われるのはそんなに厭ではない様だ。膝から崩れ落ちるようにへたり込むと、雅弘は首元に湯を当てるように位置を変える。白い長い髪を纏めて前に垂れ流すと一際大きい背中の傷をなぞる様にゆっくりと泥と血を流して、器用に石鹸で肩から洗い始めた。
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