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元来、神や妖怪は信仰によってその力を大きく変化させていた。
心から妖怪を信じ恐怖するものにしか、その姿を見せず、現代社会の定義でその感性は完全に失われ、一部の人間にしかそれは確認することは出来ない。しかし、それは弱い妖怪の話。
実体を持つ少数の『妖怪』と呼ばれる化け物は少女の様に現代社会に紛れ込み、人を喰らえる時を待っている。故に、己の力量も判らず只傲慢であれば己の存在を維持する事も、現代の人間の信仰に敵わず無残に消えてしまう。
しかし、それは…、その山から降りてきた百鬼夜行の再現は明らかに信仰を、存在定義を、逸脱するモノだった。
殺気の固まりは、蟲を、獣を、死体を操りすべてを鬼に変える。まさに業の集まりだ。しかし、男はそんな事には興味が無い。その全てを駆逐するだけだ。手元にある短刀で何処までこの死線の境界を潜れるか、かつて狗と呼ばれた男は殺気の渦に飛び込んだ。
暫くして少女の到着の時には、その戦いは始まっていた。
まるで獣のような動きに何者も触れるものは居なかった。
狗は踊る。左手の白を小さく、大きく、鋭く、頭に、胸に、首に、斬り付け、突き刺し、殴打する。その返り血を浴びることなく、間合いに入る全てを消滅させる。
あの少女の殺気や臭いを感じて、もしや…、そう思っていた。
狗の疑惑は核心へと変わり、崩れる顔を抑えるのに苦労した。
――…待っていたのだ、この時を。
心が躍る。準える様にこの身体に染み付いた戦慄を思い出す様に、その全てを駆逐するまでその動きを止めることは無かった。
消滅した獣が、蟲が、大凡怪と呼ばれる全てが、瘴気となって空中に千散される。男がその動きを止めた時、そこにはどす黒い瘴気以外、残るモノは何も無かった。
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