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「そんな言葉、信用しろと? 貴様の眼は、先刻より読み易いぞ」
「…ふむ、ならばどうする?」
「見下しおって…よぉく見ておくが良い。ワシの…獣の姿をッ」
着物の帯を解く。するりと素肌を月光に晒すと、四つん這いになるように地に手を着いた。
瘴気を吸い始めると、その姿を人の形から逸脱させる。か細い腕は獣の手に代え、端麗で有った顔は骨骼を変え、髪の毛が全身を包む様に伸び、獣の耳が、鋭い牙が生え、妖気の帯が少女に二尾を形作る。
まるで大型の、白豹を連想させる体躯に雅弘は舌を巻く。
成る程、確かに獣で有れば人間はこれに打ち勝てないだろう。況してや手負いの猛獣だ。腕を咬まれれば簡単に其れを引き千切るだろうし、其の腕を振り下ろせば容易く頭を潰す事も出来るだろう。全身を突き刺す様な殺気に身が震える。雅弘の口元が思わず緩んだ。
「ふん、傷の影響で万全にもならんわ。まぁ、感謝はしておこう。貴様の散らした瘴気のお陰で傷の治りも早い。ではこれで、貴様の憎む異形の姿じゃ…さぁ、殺し合いと洒落込もうじゃないか人間」
大気を震わす咆吼。しかし雅弘は驚く素振りも見せず、ただ嗤っていた。
「成る程成る程…綺麗だな。醜い先程の奴よりは随分と別格だ」
感心した様な声は、猫にとって一層不気味でしか無かった。しかし、こうなっては早期にけりを付けるしか無い。低く構えると小さく唸る。
「戯言、参るぞ」
白猫が駆け出す。二歩で男の死角に回り込むと、その鋭く伸びた爪で凪ぐ。が、雅弘は紙一重でそれを避わすと短刀の鎖が少女の無防備に伸びきった腕に巻きついた。
「くっ! なんじゃ、このっ!」
巻きついた鎖を引き千切ろうと引くが、何度無理やりに引っ張ってもその鎖が切れることは無い。逆に自分の腕を締め付けるだけだった。
「…只の鎖では、ない?」
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