【参幕】狩人 -The dog-

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「只の鎖さ。人間にとってはなっ!」  一気に懐に潜り込む、しかし白猫の迎撃の爪が雅弘の身体を凪ぐ。しかしそれは、陽炎の様に当たらない。直線の動きは読まれる、そんな事はわかっていた。揺らぐ様に緩急をつけた瞬間的な踏み込み、歩法・縮地を織り交ぜ背後に回る。 「なっ!」  白猫の腕が再び伸び切り、状態が不安定になった僅かな瞬間を雅弘は逃さない。そのまま鎖を引き重心を崩した瞬間、脇腹を殴打した。衝撃が背筋を突き抜けるとそのまま白猫を地面に叩き付ける。  視界が反転する。  万全とは言えないにしろ、この男は…白猫を圧倒的に凌駕していた。 「…ここで止めを刺せるが…興が反れたな」 「良いのか? 千載一遇の瞬間かも知れんぞ?」 「こんなのが千載一遇なら何時でも作り出せる…甘く見るなよ?」  その言葉、虚勢で無い事を白猫は十二分に理解していた。しかし、其れを認められる程に寛容には成れない。 「…くっ、舐めおって…」 「それはそのまま返す。…それで、背後から向かってくるデカイのも、お前の客か?」  散った瘴気を嗅ぎ付けてきたので有ろう。醜悪な殺気を撒き散らして地を這いずる蟲の音。アレも、明らかに追っ手で有ると理解出来た。 「わかっておるじゃろうが。聞くでないわ」  雅弘は白猫から鎖を外すと、再び自分の腕に巻きつける。  その後すぐに白猫も起き上がる。  有象無象の瘴気を吸って、徐々に力を増す一匹。それは夜闇に届く程に大きく、歪な形をしている。硬質化した黒い鱗に百にも届く足。うねる身体から鉄を擦り合わせたような音が湿った大地に轟いた。
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