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「まったく、度し難いとはこの事を言うのか?」
呆れた声で雅弘は呟く。そこに先程の緊張感は欠片も無い。
「百暎に身体を与えられたか…蜈蚣ッ!」
白猫が上空を見上げるようにその頭に向かって叫んだ。
「ネ、猫又…見ツケタ…ゾ」
拙い言葉が大地に響く。
「最近の蟲は人語も話すんだな…」
男がこれ程までに緊張感を解いているのは、ワシより格下だと瞬時に見抜いたからか。まさに飛んで火に入る…と言うヤツだ。これではこの男は殺せない。いや、手を煩わせる事も無いだろう。
「百暎ノ所ニ戻ルカ…コノ場デ、ク、喰ワレルカ…」
「蜈蚣よ、ワシが喰われる為だけに戻ると思うか?」
白猫はほくそ笑む様に表情を歪ます。次の瞬間、巨大な黒い塊が其れを目掛けて地面を抉った。思った以上に速い。しかし、目で追えない速度では無い。土埃を上げて躯を四方八方に捩っては白猫を捕まえようとするが、所詮は蜈蚣の速度。猫の速度に追い付かない。
「でかいと迫力があるな…」
まるで他人事の様にケラケラと笑う男の顔が一々憎らしい。こいつは本当に気でも触れているのでは無いだろうか?
「まさか、攻め倦ねいている訳ではないよな? それとも手伝う必要があるか?」
「…貴様と言う奴は、どれだけワシを馬鹿にすれば気がすむのじゃ!?」
「成る程成る程、喋る余裕は有る訳か」
嬉しそうに声を上げる。
――実に面白くない。ふん、そうか。と、白猫は喉を鳴らした。
この男は本当に復讐という感情は持ち合わせていないらしい。ただ、単純に戦を愉しんでいるように見えた。これがこの男の本質、なのだろうか?
まるで力比べをする童の様に、ただ見下されるのが気に入らなかっただけ…だったのか?
そして、奴の放った偽りも見抜けずに何時の間にかワシは踊らされ、その矛先をしっかりと収めていた、と言う訳だ。次第に、白猫の中でこれが強く興味に変わっていく。しかしだ、しかし…。
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