【参幕】狩人 -The dog-

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「当たり前じゃっ!」  癇に障る事だけは確かだ。悪い気がしなくなっているのは、既に矛を収められたからか。…この人間の気に当てられたか。ワシもなんとも…気でも触れたか?  白猫は低く嗤う。 「まぁ見ておれ、この客はワシが持成すぞっ」  すでにその体躯は蜈蚣の背後に回っている。しかし、声に反応したか、蜈蚣の巨大な体躯が大地を薙ぐと猫は難なく其れを跳ねて避わす。蜈蚣は思った以上に身軽に反転し、再び猫に頭を振るうが、これも十分な間合いで避ける。どう足掻いても、力量は一目瞭然だった。 「いい加減、幕を引こうか」  頭を押さえる。滑り落ちる様に鉄の様な皮膚を引き裂く。 「瘴気になって敬愛する父上に念でも送るが良い」 「グゥッ! 猫又ァ!」  刹那、猫の右手に纏わせた妖気が集約し、爪を模る。振りかぶる一閃は、醜悪なその黒い頭を一気に粉砕した。  其の一撃は断末魔さえ上げさせない。  頭を潰され、声も立てられずに黒い胴体がうねり何度も大地に叩き付けるが、次第に其れも弱まり、瞬く間に絶命した。体躯は瘴気に還り、その爪跡だけが大地に残った。  猫は、ゆっくりと人の姿に変わり雅弘の方に振り返る。 「さて、人間よ。貴様が只の人間でないことは理解した。貴様ほどに強い人間なぞ戦の時代にもそうは居るまい? 先の武器は何じゃ? 貴様の動きは何じゃ? 八十年生きてきたがこんなにも興味が出た事なんぞなかったぞ」  地面に落とした着物を羽織ると、簡単に帯を締め付ける。折角の召し物が泥を吸って台無しとなりはしたが、不思議と悪い気分はしなかった。  少女に最早、微塵の殺気もない。そして、警戒もない。 「…そうかい。そいつは良かったな。しかしだ…」
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