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――食べ…パパが…食べられ、ちゃっ…た…?
競り上がる胃液と同時に肺の空気が一気に漏れだした。しかし声帯は震えない。
声を上げる事すら身体が拒絶している。絶望。恐怖。明確な単語がこれ程までにはっきりと今自分が置かれている現状を認識させた。
畦道だったはずの地面からかしゃかしゃと有り得ない音。それは徐々に大きくなり、距離を詰めてきている。
少女は恐る恐る視線を下に向けると、其所は足場の悪い畦道では無くなっていた。
黒い、蠢く地面。敏感にもその視線が其の個体の一つを注視する。
蟲、蟲、蟲…。無数の蟲がまるで一つの個体の様に蠢いている。
息を嚥む。が、それはほとんど肺に落ちていかない。まるで酸素不足の金魚の様に何度もぱくぱくと息を吸い直す。
少女の正気は既に崩壊しかけていた。いや、残っていたのはもうなけなしの自我だけだったのかもしれない。
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