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「ふん、好き勝手言ってくれるわ…」
漸く大気を震わす魑魅魍魎の咆吼に白猫は一切耳を貸さない。
復讐を果たし、生きる糧を見失った頃なら『父上』の糧になる事も迷わなかっただろう。
しかし、何十年という時を経て疑問は次第に溝を生み出し、亀裂を起す。
『さぁ…異端の為に! 常夜の為に! 百暎様の為に!』
まるで盲信した狂信者の様に、口々に其の長の名を掲げる。
白猫は理解していた。
百暎――そう、魑魅魍魎の長はおそらく人を、やがて天を、喰らいに掛かるだろう。その力は積み重なる歳月により徐々に増長し、影の存在である我々がその理を逸脱できる程になっている。
しかし、いまだ現世を常夜に反すだけの力はない。
白猫の存在は其の力を手に入れる為だけのほんの僅かな戯れ。ただ、"喰う為だけの贄"に他ならない。ただの贄であれば好きに生きさせる事もなかったのだろう。しかし、それは戯れ。退屈な時間を紛らわせる玩具に等しき存在。
異形であるならば、魑魅魍魎であるならば百暎のやろうとしている事はまさに揺らがない地位を、存在を手に入れる事と同義語だ。ならば、我々の様な影の存在は其れに疑問すら抱かない。何故ならば、それは神に成り代わって大地に根付くと言う事だからだ。妖にとってこれ以上の誉れはないのだろう。
しかし、本当にそうなるのか? 影が表に出ること等有り得るのか?
事実、白猫は百暎が何を抱き、何を思い、何を成すのかを知らない。ただ妄信的に、贄を集めれば影でいる事を辞め、都合良く表の世界に生きられると謳っている。あの有象無象はそんな言葉を信じた者達ばかりだ。
さて、人を喰らい、天を喰らい、そして地を喰らう。謳う言葉を執り行うのは、力を手に入れた百暎に他なら成らないだろう。故に百暎以外の存在は贄の有象無象に過ぎないのではないか?
ならば其れはまさに餌になる為に活かされ、餌になる為に死ぬ、ただの家畜だ。
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