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【序幕】怪異 -Black Street-
――ぱしゃり、と水が叩く音がした。
次に聞こえたのは喉を詰まらせたの様な『何か』の呻き。そして、万力で枯れ木でも折る様な断続的な拉げる音。やがて一際乾いた音
が響き、少女の右手を掴んだ、父親の逞しかった腕がぶらりと垂れ下がる。それは次第に力強さを失い、ぽとりと地面に落ちた。
いったい何が起こったのか。端で見ていた少女には状況の認識が出来ないでいた。
まるで脳が認識を拒絶したのか、それとも酷い悪夢でも見ているのだろうか? その現象は思考を巡らせる余裕すら与えない。それはまさに、刹那。
腹の底から声帯を震わせる前に其れは少女の瞳を覗き込む。
生暖かい吐息が少女の顔を優しく撫でる。鼻を突く獣の匂いに混じって、濃厚な異臭。およそ初めて感じる其の臭いでも少女は直感的に認識する事になる。
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